私が不妊治療を
始めるならば。

東京HARTクリニック 小柳由利子先生の“病院の選び方”。

私が不妊治療を始めるならば。

東京HARTクリニック 小柳由利子先生の“病院の選び方”

取材・文:Coel運営チーム

掲載日:2018年1月15日

東京HARTクリニックで生殖医療に従事する小柳由利子先生は、不妊治療に取り組む患者さんと同世代の女性医師です。治療を通じて患者さんに幸せになってもらうことを目標に、よりよい医療・妊娠を目指して日々の治療に向き合っておられます。昨年、不妊治療を分かりやすく解説するHPも開設されました。

小柳先生は、多くの患者さんにとって最初(そして時に最大)の悩みどころである病院選びにあたってのアドバイスをHPに掲載しています。小柳先生自身が不妊治療を始めるとしたら、どのように病院を選び、どのような治療を選択するか。女医の視点から、私たちに寄り添ったコメントを頂きました。

——小柳先生は、日本の不妊治療施設の特徴を標準型、経験型、未来型の3つに分類して説明されていますね。非常に分かりやすい説明だと思います。

日本の不妊治療施設の特徴(小柳先生の私見)

  1. 標準型:標準治療、すなわち世界中で行われている調節卵巣刺激法(ロング法・ショート法・アンタゴニスト法)を体外受精治療の主体とすること。エビデンスに基づいているため、最も多くの患者さんに合う可能性が高い。
  2. 経験型:低刺激・自然周期法などを採用し、患者さんの負担に配慮した治療を行うこと。エビデンスよりも、医師の経験や思想に基づいている。
  3. 未来型:それほどエビデンスレベルの高くない報告に基づいた検査や治療を積極的に取り入れること。難治性の不妊症や少数派の患者さんに合う場合がある。

患者さんにわかりやすいように、この3つに分類してみました。通常の保険診療の場合、こういった概念は普通だと思います。標準治療は、最近はガイドラインなども設定されており、一般的にも情報は得やすいと思います。それを超えた治療は、治験や先進医療として提供されますし、標準治療から外れた治療は、自費診療として行われます。

不妊治療の場合、これらがごちゃまぜになっているのは、不妊治療そのものが自費診療だからです。しかし、インターネット上に情報が氾濫していることもあり、患者さんは混乱するばかりです。学会が、ある程度指針を提示するべきだと思います。

不妊治療は「医療」というよりもはや「ビジネス」です。病院経営者にとっては、患者さんにはしばらく通い続けてから妊娠してもらいたいのが本音ですし、患者さんも、毎日注射するのを好んで行う人はいないわけで、薬は使わないか内服程度で済ませたいですし、費用も安く抑えたい。そういった両者の思惑が一致して、効率の悪い治療が蔓延しています。また、特に都心部では不妊治療施設が乱立し、施設間で患者獲得競争になっています。そのため、サプリや鍼灸なども含め、効果は定かではないけれど患者さんのニーズに合った治療以外の選択肢がいろいろ登場しているのが現状です。

治療成績が公表されていない状態では、不妊治療施設の利益追求と患者さんの利益(=妊娠すること)は相反しています。ここには第三者の介入が必要で、欧米では治療成績を国が管理して公開しており、一定の成績を満たしたクリニックしか治療が行えないようになっています。日本でもこういった国の対策が必要だと思います。

 

——日本ではできるだけ“自然”な治療を好む患者さんが多く、低刺激・自然周期の排卵誘発を行う不妊治療クリニックが増えてきています。しかしこれは海外と比べると特殊な状況で、論文等では高刺激の排卵誘発を行う方が治療成績は良好という結果が出ているのですね?

はい。ただし、日本と海外の不妊治療を単純に比較することはできません。海外に比べて、日本では治療年齢が圧倒的に高いからです。年齢が高いということは、卵子の残りが減っていて、刺激をしてもそれに見合っただけの数が育たない方が多いということです。ですから、「刺激少なめ」というオプションは、日本ならではの選択肢なのです。問題は、刺激すれば早く妊娠にたどり着けるのに、“自然”にこだわって時間をロスしてしまう方が多いという状況です。卵を多く利用できるのなら利用したほうが早く妊娠できるのはデータから明らかです。

 

——小柳先生はそうした(低刺激・自然周期の)クリニックを批判しているわけではなく、患者さんを主体として標準型、経験型、未来型の3つのタイプの施設で手を取り合い協力していく必要があるとおっしゃっています。実際に、刺激が合わないか、AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能の指標)が低い方など刺激しても卵子が多く採れないタイプの方には、そうしたクリニックが合う可能性があるのですね。

はい。ただ、このように書いていますが実際に刺激が合わない方というのはそれほど多くはありません。よく、刺激をしてもよい卵が採れなかったから「私には刺激が合わない」とおっしゃる患者さんがいますが、多くの場合、刺激が合わないのではなく卵の質がもともと悪いのです。その証拠として、刺激法から低刺激または自然周期法に変えて、良好胚が初めてできるような例はほとんどありません(逆はとても多いです)。

また、AMHが低くても刺激すれば意外に個数が採れる方もいるので、一度は刺激はしてみる価値があると思います。順番としてはやはり経験型(低刺激)よりも標準型(高刺激)を先に行うことをすすめます。不妊治療は時間との戦いですから。

 

——患者さんは、自分にどんな治療が必要なのか、治療を始めるときには分かりませんし、自分にどんな治療が合うのか判断することも困難です。特定の不妊要因が見当たらないのであれば、第一選択として多くの人に合う可能性の高い標準型の施設を選ぶというのは、小柳先生が標準型の施設で働かれているということを差し引いても合理的な説明だと感じました。

不妊治療以外の治療で、はじめから標準治療以外を選ぶ人はいませんね?不妊治療でも同じです。また、「いつ治療を始めるか」というのがとても重要です。30代前半であれば、標準型の治療で多くの方はスムーズに妊娠します。年齢が上がると、卵の質が低下したり、内膜の日付のずれや不育症因子などが出てきたりして、個々に標準的な治療を超えた対応が必要になってきます。

 

——標準型の治療を取り入れている施設かどうかは、どのように見極めたらよいのでしょうか?小柳先生のブログによると、一般社団法人 JISART(日本生殖補助医療標準化機関)に属する施設は標準型の治療を主としていることが多いようですが、病院のHPなどで治療方針を確認し、調節卵巣刺激法(ロング法・ショート法・アンタゴニスト法)を採用していることを判断できるのでしょうか?

JISARTは、ブログにも書きましたが安全性や管理システムを審査する機関であって、治療方針や成績については施設によって様々です。病院のHPを見て、調節卵巣刺激についての記載があれば、標準型と判断できると思います。また、こういった治療を行っている施設は治療成績が高いので、HPにも成績が記載されています。

 

——ここまで、体外受精を前提とした治療の話をしてきましたが、そもそも体外受精などの高度不妊治療が必要かどうかはどのように判断したらよいのでしょうか?医師に勧められると、そちらの方が儲かるからやみくもに勧めているのではないかと不安を感じます。

体外受精が必要であるという診断はできないのです。卵の質がどうかは外へ取り出してみなければわからないし、卵管が通っていても正常に働いているかは検査できないからです。タイミング法や人工授精といった一般不妊治療には半年で区切りをつける、というのが一般的な判断です。ただ、40代でAMHが高ければ、少しでも早く体外受精を行うのが、妊娠のチャンスを逃さないためにはよいと思います。もちろん患者さんの希望があればですが。

 

——タイミング法や人工授精のため既に通っている病院がある場合、体外受精にステップアップする前に転院を検討すべきでしょうか?セカンド・オピニオンのつもりで、第三者(他の医師)の診察を受けるべきですか?

タイミングや人工授精にはそれほど技術は必要ありませんが、体外受精は施設による技術の差が歴然です。実績のある施設を複数受診して、納得のいく説明が受けられる施設を選ばれるのがよいと思います。

——「妊娠率90%を超えるクリニック」では、以下のような治療内容であれば妊娠率90%を超えるクリニックが実現しうるだろうとおっしゃっています。つまり、病院・患者がより一層の時間と手間とコストをかければ妊娠率は上げられるということですね。

妊娠率90%を超えるクリニックの治療内容(2017年3月12日投稿)

  1. 全胚(胚盤胞)凍結
  2. 全胚PGS施行(但し、現時点では日本で未認可)
  3. 移植周期は全て排卵周期FBT(凍結胚盤胞移植)
  4. 移植の前周期に子宮内膜日付診・内膜炎検査施行(初回のみ)
  5. 移植周期に子宮鏡検査・内膜のscratch(注:引っ掻くこと)施行

手間やコストをかければよい、というの大雑把に言えばそうですね。ただ、全員に必要なわけでもない。すべての患者さんにそれを行うとなると、必要ない人にとっては負担になってしまうし、病院にとっては業務が膨大になり、医療の質が逆に下がる可能性もあります。その辺のバランスが問題です。病院によって、多くの患者さんをあまり手間をかけない方法で治療する施設と、少数の患者さんに、手間やコストをかけて治療する施設とに方向性が分かれているため、患者さんはよく考えて選択されるとよいと思います。一般的に、それらは治療費に反映されるため、HPなどで確認できると思います。

さらに、治療内容に加えて技術がとても重要です。例えば胚盤胞凍結や、PGS(日本では未認可)はラボの技術力に大きく左右されます。また、4. についてはエビデンスとしては明確になっていませんが、当院でのデータによって裏付けられているので採用しています。大事なのは、医師やスタッフが常にデータを振り返りながら成績を向上させるよう取り組んでいるかどうかです。こういった日々の積み重ねが、技術力につながってきます。

——医師との個人的な相性はどの程度重視すべきでしょうか?治療方針が合うかどうかというのはもちろん重要なことですが、精神的負担の大きい治療に取り組む中で、医師の態度や言動は私たちの気持ちを大きく動かします。時に医師が原因で治療を止めてしまう方もいらっしゃいます。

人当たりのよい言葉の上手な医師が、本当に患者さんのことを考えている医師とも限りません。態度の悪い医師や話を聞いてくれない医師は問題外ですが、ある程度割り切って、技術のある医師にかかったほうが良いと思います。精神的負担については、カウンセリングや専門看護師外来などで相談できる機関もありますし、他の施設で治療中でも相談できるカウンセラーやピアカウンセリングなどもありますので、そういったところで相談されるのもよいと思います。

——東京HARTクリニックの治療方針と、小柳先生の治療に対する考え方について教えてください。

当院は、患者さん一人一人に合わせた治療を行い、全力を尽くすやり方です。当院でできない治療はほとんどありませんが、不育症に関する精査だけは専門機関にお願いしています。

私の考え方としては、妊娠するしない、子供を産む産まないに関わらず、患者さん一人一人にとにかく幸せになってほしいと思っています。極端な話、私たちの仕事がなくなってしまえば、それが本望なんです。

私も、この仕事を始めたばかりの頃は、希望に満ち溢れていました。しかし、最近は生物学的な年齢の壁にはどうしても勝てないと、無力感を感じることが多いです。当院は妊娠率は非常に高いです。40代でもよく妊娠します。でも流産も非常に多い。現実を見つめるために、当院のデータを振り返ってみました。すると、初診の受診人数と卒業し出産した人数を比較すると、なんと40代で受診した患者さんの2割しか妊娠・出産に至っていませんでした。つまり、8割の患者さんは、出産できない治療のためにお金を費やしているということです。受診した時点で、自分がその2割に入るのかどうかということはわかりません。ただ、この2割の方のうち、50%以上が1回の採卵で得られた卵で出産しており、80%以上(年によっては95%以上)が、3回の採卵までに得られた卵で出産していました。2人目まで出産されている方も複数いらっしゃいました。つまり、妊娠しやすいタイプとそうでないタイプが明確にあって、3回の採卵までに決着がつかなければ、そこがやめどきであるということがはっきりと言えると思います。

子供を持ちたいという願いは本能ですので、これをあきらめるというのは相当な辛さを伴うことだと思います。冷静に考えてみると、80%の確率で数年以内に壊れてしまうような不確実な車や家を買う人はいませんよね?でも、不妊治療に関してはそうではない。これは、本能であることに加えて、多くの人が現実を知らなすぎることが原因だと思います。

40代での出産は、5人に1人しかできないのです。しかし、現在不妊治療を受ける患者さんの4割近くが40代であり、不妊産業に膨大なお金を費やしています。これはおかしなことではありませんか?国を挙げて、取り組むべき問題ではありませんか?

これを解決する一つの方法が、日本では未認可のPGS(着床前胚スクリーニング)です。流産する胚を移植しないことで、治療期間のロスを防ぎ、結果として出産に至る胚に出会う可能性が高まるからです。さらには、社会的な取り組みが必要だと思います。

治療をできるだけ早いうちに開始できるよう、企業の妊活支援や子育て支援を充実させること。国の待機児童問題への対策。40歳までに子供を産み終えることが、国全体としての政策目標となるべきだと思います。

一方で、40代でも元気であれば子育てはできます。子供を育てたいという想いはとても価値のあるものだと私は思います。海外では、40代では卵子提供や養子縁組といった選択に容易にアクセスできる環境があります。日本でも、不妊の患者さんが治療のスパイラルにはまらずにハッピーになれる選択肢がもっと増えるべきだと思います。

最後にCoel代表の伊藤さんとお話して印象的だったのは、現代の若者は、多様性に対して非常に寛容であるというご意見でした。LGBTカップルや、ステップファミリー、様々な家族のあり方が受け入れられる社会になりつつあると思います。私は、これはよいことだと思います。家族はこうでなければならないといった型なんてありません。愛情と愛情でつながっていれば、血縁も性別も関係ないと思うのです。大事なのはありのままの個人が尊重されることです。もちろん、子供の立場への配慮も含めて。

制度を作る側の人々は、長く生きている分、古い考え方の人が多いと思います。そこで、これから家族を作る当事者である、若い人たちが声を上げて、時代を変えていくことがとても重要なことだと思います。

小柳由利子先生

 

小柳由利子先生

2006年福島県立医科大学医学部卒業。町田市民病院、木場公園クリニック、東京大学分子細胞生物学研究所を経て、2015年より東京HARTクリニックに勤務。専門は生殖医療。日本産婦人科学会専門医。医学博士。

東京HARTクリニック

胚盤胞のガラス化保存法を世界に先駆けて開発した不妊治療クリニック。高い妊娠率を誇り、不妊学級や無料電話相談、不妊カウンセリングも提供する。

トップへ戻る