「いつか産みたい」に向き合える相談所を目指して

プリンセスバンク株式会社 代表 香川則子博士インタビュー

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「いつか産みたい」に向き合える相談所を目指して

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プリンセスバンク株式会社 代表
香川則子博士インタビュー

取材・文:Coel運営チーム

掲載日:2018年7月18日

不妊治療は、婚姻関係にある男女が病院へ行って治療費さえ支払えば、女性側が余程高齢か、持病などにより妊娠・出産のリスクが高いと判断されない限り、誰でも行うことができます。ブライダルチェックや精液検査は、未婚でも行えるようになりました。では、卵子凍結はどうでしょうか?お金さえ支払えば、誰もができることなのでしょうか?金銭的余裕のある未婚女性は、将来子どもが欲しいのならばできる限り若いうちに卵子を凍結しておくべきなのでしょうか?

この問いに対して、卵子凍結は誰もができることでも、すべきことでもないと答えるのが、未婚女性の卵子凍結を行うプリンセスバンクです。では、どんな人が卵子凍結に適しているのでしょうか。代表の香川博士にお話をお伺いしました。

プリンセスバンク香川則子博士
プリンセスバンク株式会社 代表 香川則子博士

私たちは、卵子凍結を推奨する施設ではなく、説明する施設である。

——未婚女性向けに卵子凍結を行っている病院へ行くと、簡単な説明の後、採卵のための検査のプロセスが始まりますが、プリンセスバンクの場合はまず「適性検査」と呼ばれるカウンセリングから始まるのですね。

はい。身体の状況、仕事のタイミング、挙児希望の強さ、今すぐ妊娠することが難しいのか、などを話し合い、本当に卵子凍結を行うのかどうかご自身で決めて頂くための時間を持ちます。

卵子凍結を申し込まれる女性の中には、生殖に関する十分な知識を持ち合わせていないケースが多々あります。そもそも、どうしたら妊娠するのかさえ知らない方もいます。女性ならば生理が来ている限り、男性ならば精液が出ている限り妊娠できる、と思っている方もいます。自然妊娠、不妊治療、卵子凍結といったことの概要についてお話し、正しい情報を提供したうえで、ご自身の状況と照らし合わせ、ご自身で判断して頂く。それが適性検査の内容です。

——貴社は卵子凍結を行う「株式会社」ではありますが、若いうちにとにかく卵子凍結しておいた方が良い!というスタンスで凍結を勧めているわけではないのですね。

はい。卵子凍結の前に、皆さんが知っておかなければならないことはたくさんあります。日本はセックスレスの夫婦が多く、そもそも子供ができにくい状況です。しかし、不妊治療が普及し、年間40万件の体外受精が行われるようになり、不妊治療をしたら子供ができるんでしょ?と最先端の技術に対する過度な期待を持つようになってしまっています。

そもそも「不妊治療」という言葉が悪いと私は思っています。「治療」=治る、授かれる、頑張ればできる、というイメージを持ってしまうのです。しかし実際には、年間40万件行われている体外受精のうち出産できるのは5万人(注1)、たった1割です。9割の人は出産できない。その事実を理解しないまま、もしくは、自分は出産する1割に入れるという根拠のない自信を持って治療を行う人が多いのです。不妊治療に対しては男女の温度差がある場合も多く、時に体外受精離婚をしてしまう夫婦もいます。子を持ちたい夫婦の希望を叶えるために不妊治療をするはずなのに。

注1:日本産科婦人科学会が発表する体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、2015年には424,151周期の体外受精・胚移植が行われ、出生児数は51,001名であった。

 

——つまり、貴社は生殖に関する知識を啓発する役割を担っているのですね。

我々は卵子凍結を推奨する施設ではなく、説明する施設なのです。

そもそも日本では、医療に対する患者側のスタンスが欧米とは大きく異なっています。保険診療のおかげで、適正な医療を安く受けられることが当然だと思っている。そして、医療リテラシーが低く、治療について知識を持ち合わせていない。正しい情報の調べ方も分からない。自ら医師の言いなりになっておきながら、後でクレームを言うのはお門違いかもしれません。

本来であれば、学校教育で生殖について学んだり、医師や専門家とじっくり話しあったりする機会が持てればよいと思いますが、少なくとも不妊治療施設では一人の患者さんに割ける時間が限られており、じっくりと問診することはできません。また、体外受精の仕組みについては説明できても、そもそも人はどうしたら妊娠できるのかというところから説明するのは時間がかかってしまう。そうしたことを、提携施設に代わって説明し、皆さんが望む選択を自分で行えるようサポートするのが私たちの使命です。

——では、卵子凍結をしたいと言って話を聞きに来ても、実際にはしないという女性も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

はい、他の選択肢を選ばれる方もたくさんいらっしゃいます。既婚の方で、今すぐ産むことがタイミング的に難しいからと卵子凍結を予定して来た方が、本当に今産めないのかもう一度考え直してみますと言うケースもありますし、子どもが産みたいのではなく育てたいということであれば、養子縁組や里親制度、短期的に子育てに関わることのできるような制度もたくさんあるということをお伝えします。

卵子凍結は、未婚のうちに1人でも始められる体外受精のプロセスの一つ。

——卵子凍結に関心を持つ方は年々増えてきているのではないでしょうか?

この事業を立ち上げた5年前、私たちはメディアで数多く取り上げられました。当時は批判もありましたし、卵子凍結をキラキラしたもの、つまり若いうちに卵子凍結をしておけば将来高齢になっても子どもが持てるんだ!という魔法のような幻想を持った方が多くいらっしゃいました。

とはいえ、卵子凍結と言う言葉がここまで社会に出てきたのはとてもポジティブなことです。この5年で「キラキラ卵子凍結」を望む方は減り、女性が自分のライフプランを真剣に考えるようになってきたと感じています。

——卵子凍結の費用は助成もなく非常に高額で、未婚女性にはなかなか容易に出せる金額ではありませんが、いかがお考えでしょうか?

プリンセスバンクでの卵子凍結費用:約60-80万円

<内訳>

  1. 婦人科での初診から採卵までの費用:約15-50万円
  2. 卵子凍結にかかる費用:約25万円
  3. 卵子1個あたりの保管費用:1万円(5個以上保管の場合、1年あたり、税別)

※34歳以下の場合、総額30万円程度の特別プラン有り。

 

2年目以降は卵子1個あたり1万円/年の保管費用がかかる。

体外受精の出産率(注2)は、採卵する年齢に依存するため40歳で10%、最も成功率の高い30-35歳でも20%です。その治療に、患者さんは1回あたり50万円以上を支払っています。確率論で言えば、42歳以上では出産するために数千万円以上の治療費を支払うことになります。

自分が将来、35歳を超えて体外受精を行う可能性が高いのであれば、せめて妊娠率20%の卵を確保しておきたい。そう思ったときに、妊娠率20%の卵子の凍結に今かかる費用を先行投資として捉えられるかどうかということです。

注2:日本産科婦人科学会が発表する2015年の体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、治療周期あたりの年齢別成績は以下の通り。

  1. 30歳:妊娠率27.3%、流産率16.5%、生産率(出産率)21.5%
  2. 35歳:妊娠率24.3%、流産率20.1%、生産率(出産率)18.4%
  3. 40歳:妊娠率14.8%、流産率34.6%、生産率(出産率)9.1%

 

——卵子単体で凍結した場合、受精卵を凍結した場合と比べて生存率が落ちる、という話を聞いたことがあるのですが。

実際にはそんな心配をする必要はありません。最新の論文によると、急速ガラス化法で凍結した卵子の融解後の生存率は97%(出典1)と極めて高く、受精卵との差はほとんどありません。また、新鮮な(=凍結していない)卵子と比べても、凍結によって受精率や妊娠率は低下しません。むしろ、一般的な体外受精治療では凍結受精卵の妊娠率の方が子宮環境を最適化できるため、非凍結受精卵の移植よりも実施数は多いのが現状です。

出典1:Cobo A, Vajta G, Remohí J. Vitrification of human mature oocytes in clinical practice. Reprod Biomed Online 2009; 19 (suppl 4): 4385.

 

——安心しました。それならば、将来のために少しでも妊娠率の高い卵子を凍結しておきたいと感じます。ただ、妊娠に十分な数の卵子を採取・凍結するのは実際には大変なことですよね。採卵してみたけれど1個しか凍結できなかった、というようなケースもあるようです。

1人出産するために必要な卵子の数は、39歳以下の方であれば10個、40-44歳であれば50個と言われることが多いです。但し、凍結卵子が1個増えたところでその出産率の上昇は1%弱に留まり、それよりも凍結時の年齢が出産率に与える影響の方が大きいのです(出典2)。例えば30歳の時の凍結卵子があれば、2個しか凍結できなかったとしても出産率は20%を超えています。

出典2:Stoop D, Cobo A, Silber S. Fertility preservation for age-related fertility decline. Lancet 2014; 384: 1311-19.

 

他にもメリットがあります。卵子凍結とは将来行うであろう体外受精の最も大変な部分を済ませておくようなものです。不妊検査・排卵誘発・採卵を経て卵子を凍結しておけば、後は男性の精子で受精させ、自分の身体に戻すだけです。将来の身体的・心理的・経済的負担は大きく軽減されます。

体外受精離婚をする人もいるという話をしましたが、将来パートナーが出来ても、その人が不妊治療に協力的かどうかは分かりません。そもそも、不妊治療のプロセスの中で男女の身体的負担の重さは大きく異なります。男性は精液検査をしたら、(深刻な問題がない場合)あとはしかるべき日に精液を用意するだけです。一方、女性は検査のために複数回通院し、排卵誘発の注射を打ち、薬を飲み、痛みとリスクを伴う採卵を行い、その後受精卵を移植します。もしも移植の前までのプロセスが事前に済んでいたらとても楽ですし、男性との負担の大きさも大きく変わりません。パートナーとの関係がこじれるようなケースも減るのではないでしょうか。

本当は、妊活は夫婦で乗り越えていくべき過程の1つに過ぎないのかもしれませんが。そう考えられない夫婦が多いようです。

——確かに、将来の精神的負担まで減るのであれば、大きなメリットですね。

そもそも、年齢にこだわりすぎている方が非常に多いのです。卵子の老化がメディアで報じられた影響などもあり、35歳過ぎたらすぐ体外受精!だとか、1日でも早く卵子を凍結しなきゃ!とまるで脅迫されたかのようにプリンセスバンクに訪れる方が多い。とても残念なことです。

ただ、生殖パートナーとして若い方がよいのは女性だけではなく男性もなのです。実際に、30代後半の女性の体外受精の成績を見ると、相手が同世代の男性の場合と20代の男性の場合とでは出産率が3割も異なる、という研究報告があります。子どもが欲しいならば、男女ともにパートナーが少しでも若い方がいいのです。

——なるほど、妊娠したいならば女性も若い男性を選ぶべきなんですね。

それから、体外受精を行う場合、既婚(事実婚を含む)の男女であることが実施の条件となります。一方、受精卵を作って凍結保存し、その後そのカップルが離婚してしまったら、その受精卵は廃棄処分されます。私は、3組に1組の夫婦が離婚する現代において、既婚かどうかで治療の可否を判断するのはもったいないのでは?と思います。

卵子凍結であれば、パートナーがいなくても、未婚であっても行うことができますし、将来パートナーが変わっても使用することが可能です。女性が自分で決めることができるのです。

40代の妊娠の大部分は自然妊娠によるもの。

——以前の話に出てきた「自分が将来35歳を超えて不妊治療をすることになりそう」というのは、実際にはどんな女性に当てはまるのでしょうか?

例えばですが、医師や看護師、保育士、教員などの専門職や会社経営者、転職者、管理職の女性はなかなか仕事に穴を開けることができず(産休が取れず)、生物学的に産めなくなってから後悔する人も多くいらっしゃいます。私自身もそういう状況だったのですが、30代のうちに卵子を凍結しておいたからこそ、年齢を気にせずに仕事に打ち込むことができました。みんながやるべきだとは思いませんが、生殖のタイムリミットを気にして仕事や日々の生活に支障をきたすぐらいであれば、選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。

但し、卵子凍結をするタイミングも重要です。採卵のために、仕事を少しスローダウンし、体調を万全に整えて頂く必要があります。卵子凍結を機に、自分の働き方を見直してみる。将来結婚や出産、そして育児が可能な状況にあるかどうか、もしなかったとしたらどうやってそうした状況にもっていくかということを考えて頂きたいのです。

また、結婚や出産の年齢を想定した時に、2人目を高齢出産で産むことになりそうだ、不妊治療を行うかもしれない、という方の選択肢にもなるのではないでしょうか。採卵は大きなリスクを伴うことなので、小さなお子さんがいるお母さんにもしものことがあったら大変です。未婚のうちに治療を進めることでそのリスクを回避できるというメリットもありますし、子育てや家事と不妊治療を両立することが容易ではないという現実に対しても、先に治療を進めておくことで時間の節約になります。

とはいえ、私は体外受精を推奨しているわけではないのです。そもそも体外受精は高齢不妊の治療法ではありません。卵管閉塞や軽度の無精子症など「体内で受精が難しいカップルのための治療法」です。35歳を過ぎて半年妊活して妊娠しなかったら体外受精をするべき、みたいな風潮は間違っているし、患者さんの多くはこうした誤った情報の被害者だと思います。実際に、40代で妊娠している方は、そのほとんどが自然妊娠です。

プリンセスバンクを通じて卵子凍結を行った方の中で、既に20名以上の方が出産していますが、ほとんどの方が自然妊娠です。もちろん、今後2人目の妊娠のために凍結卵子を使う可能性はありますが。私自身も、凍結卵子を使わずに自然妊娠で2人出産しています。凍結卵子は保険の役割を全うし、がんサバイバーなど必要な方への有力な資源となりました。

不妊は個人の問題ではなく、社会の問題。

日本では、高齢不妊の課題は女性の自己責任として捉えられていますよね。好きなように仕事して遊んで、高齢になってから結婚して子供が産めない、それは自分のせいでしょ?と。でも、欧米では異なります。社会が女性をそういう状況に追い込んだ、と考えるのです。がん治療などmedical reasonによる不妊(医原性不妊)も、social reasonによる不妊(社会性不妊)の一部として考えられているのです。

そして、不妊治療においては年齢制限のない病院も多く、妊娠率たった2.8%(45歳の場合)の治療を何度も繰り返す方がいらっしゃいます。実際には、体外受精で妊娠する方の多くは5回以内で妊娠しています。その5回のチャレンジをどう行うか、夫婦で決めていくことが重要です。途中で休んでも、止めてもいいのです。不妊治療に失敗した人の声がもっと出てくると良いかもしれません。

浦安市と順天堂大学浦安病院との社会性不妊の研究プロジェクト(注3)では、高齢の方の不妊治療への助成よりも、若い方が妊娠できるよう助成した方が効果的かどうか?という課題について共同で研究が実施されました。プリンセスバンクにいらっしゃる女性の平均年齢は37歳ですが、私たちはこれを32歳まで下げたいと思っています。若い女性が働きながら妊娠・出産・育児を自分事として考えられるように、私たちは「いつか産みたい」と思っている皆さんの多様な幸せをサポートしていきたいです。

注3:千葉県浦安市が少子化対策として2015-2017年度に行った、順天堂大学浦安病院での卵子凍結助成事業。市内に住む20-34歳の女性を対象に行い、29名が約3割の自己負担費用にて卵子凍結を行った。そのうち、女性の仕事の都合などによる凍結は14件に限られており、その他、病気やパートナーの都合(海外出張、入院等)による凍結が行われた。

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