精子バンクで子どもを持つということ①

精子バンクのメッカ、デンマークはどんな国?

精子バンクで子どもを持つということ①

精子バンクのメッカ、デンマークはどんな国?

Coel運営チーム

掲載日:2017年9月13日

精子バンク - 日本では聞き慣れない言葉です。ハリウッド映画では、独身のキャリアウーマンが精子バンクでアイビーリーグの優秀な大学生の精子を買ってシングルマザーになったり、喋るクマのぬいぐるみが人間の妻へ自分の代わりに精子を提供してくれるドナーを探したり、レズビアンの女性カップルがドナー精子を使って妊娠したり、といったシーンと出会うことがありますが、多くの人にとってはそもそもそれが現実のことなのかどうかも判断がつかないでしょうし(クマの話はもちろんフィクションですが!)、精子バンクを使った人の話など聞いたこともないというのが実情でしょう。

実際に、日本には企業や公的機関が運営する精子バンクは(私が調べた限り)存在しておらず、日本産科婦人科学会に登録する14の医療機関にて、医学部生や不妊治療を経験した男性などのボランティアが提供した精子を使った非配偶者間での人工授精(AID)が行われています。しかし、需要に対して供給が足りておらず、また、レズビアンカップルやシングルの女性への提供は認められていません。提供者の出自も明かされることはありません。

そんな中、子どもを持ちたい人々の多様なニーズに対応すべく、個人が精子バンクと称して自分の精子を提供する行為が密かに行われるようになりました。Googleで「精子バンク」と検索すると、自称「精子バンク」が幾つも見つかります。こうした精子の安全性は当然ながら担保されていませんが、時に性行為にまで及ぶ危険な例もあり、安全な精子バンクが国内に存在しないことの弊害が出てきています。

他方、海外では企業や公的機関による精子バンクの運営を認めている国があります。アメリカでは映画やドラマに“普通”の話題として出てくるほど精子バンクが普及しています。ヨーロッパでは数時間のドライブやフライトで容易に国境を越えられることから、不妊治療のために海外へ行く患者もおり、精子バンクに関わる国毎のルールはあってないようなものです。精子ドナーの豊富なデンマークの精子バンクからドナーが不足する国へと精子の輸出まで行われています。

無精子症などにより男性側に問題があり子どもができない夫婦にとって、提供精子の利用は女性側の遺伝子を引き継いだ子どもを持つための唯一の選択肢であり、多くの国では養子縁組制度と並んで普及しています。パートナーのいない出産適齢期のシングル女性や女性同士のカップルにも利用されています(但し、シングルマザー・LGBTによる精子バンクの利用を禁じている国や、精子バンクそのものを禁じている国もあります)。

今回、精子バンクのメッカであるデンマークを訪ね、コペンハーゲンのEuropean Sperm Bank(以下、“ESB”)を見学してきました。若く健康な男性の精子を集め、安全で妊孕性の高いものを選別して世界中に供給する精子バンク、一体どんな運営が行われているのでしょうか?

生産性の高い国、デンマーク

デンマークは北欧に位置する国で、九州と同程度の面積を持っています。人口は571万人、うち首都コペンハーゲンに128万人が居住(出所1)しています。GDPは2,854億ドルで、日本のGDP(約5.3兆ドル)の5%に過ぎませんが、 一人当たりに換算すると約5万ドルで世界第9位に躍り出て、日本の4.2万ドルを2割も上回ります(出所2)。

国民が幸せな国

デンマークについて最も特筆すべきは、国民の幸福度の高い国だということです。2017年の世界幸福度ランキングにてノルウェーに次ぐ第2位で、首位の常連(出所3)でもあります。この幸福度は、一人当たりGDP、社会的支援、健康寿命、自由、寛容さ、汚職の6つの指標に基づき算出されており、日本は51位とデンマークの足元にも及びません。

幸福度が高い理由として、ワークライフバランスの良好さ(週37時間の労働&年間5週間!の休暇)、親密な友達や家族・恋人と居心地の良い時間を過ごす“Hygge(ヒュッゲ)”の習慣、充実した福祉、治安の良さ、自転車でどこへでも行ける自由などが挙げられています(出所4)。

若い男性の少なくとも2-4%が精子ドナーに応募する

デンマークにはどれほどの数の精子ドナーがいるのでしょうか?

ドナーの数を示す公式なデータは、見つけることができませんでした。ESBによるとドナーは生涯に渡り単一の精子バンクでの登録しか認められておらず、世界最大の精子バンクであるCryos International(以下“クリオス”)には1,500人以上(HP掲載分は1,028人)、ESBには少なくとも248人(HP掲載分)のドナーが登録しています。加えて、既に一定の人数の子どもが生まれたドナーについて、既にその精子で子どもを持つ人が兄弟を持とうとする場合にのみ追加販売するケースがあります。

ドナーになるには後述の通り厳しい審査を通らなければならず、通過率は一般的に5-10%と極めて低くなっています。よって、たとえば現時点で2,000人のドナーがいるとすると、20,000-40,000人のドナー志願者の中から選別されたことになります。

ドナーになることができるのは通常18-40歳前後の男性に限られており、人口571万人のデンマークではこの年代の男性の数は約85万人(出所5)です。そのうち2-4%以上がドナーに応募しているのだとしたら、なかなか大きな規模だと言えるでしょう。

精子提供は、人助けの手段のひとつ

なぜ精子ドナーになるのか?精子を提供する度に精子バンクからお金を受け取ることができますが、その金額は後述の通りそれほど高くなく、ドナーとして選定されるまでの検査やカウンセリングの手間を考えると決して“割の良いアルバイト”とは言えません。

ESBによると、ドナーの多くは「人助けをしたい」と答えるそうです。身近に不妊に悩んだ人がいて、何か自分にできることをしたいと思う人が多いとのこと。また、こちらの記事ではクリオスのCEOが「デンマーク人の精子ドナーのうち、46%が献血も行っているというデータがある。デンマークの利他主義が関係しているのではないかと思う。小さな国なので、互いに助け合うのが好きなんだ。(訳:Coel運営チーム)」と答えています。これまで、ドナーに支払う金額を増やした時も、逆に減らした時も、クリオスのドナー志願者の数はさほど変動しなかったようです。

国が精子バンクを規制する

大多数の先進国では、精子バンクの利用などを含む第三者が関与する生殖補助医療を規定する法律が「人工生殖法」「生殖補助医療法」などの名称で制定されています。デンマークの場合は、一人のドナーの精子を使って国内女性から生まれる子どもの数(ドナーとそのパートナーとの間の実の子どもを除く)を12名に制限しており、これは2013年まで25名だったものが大幅に削減されました。同じ遺伝上の父親を持つ“兄弟・姉妹”が増えすぎて、その事実を知らない血の繋がった二人が夫婦になることを未然に防ぐための措置でもあります。よって、精子バンクを使って妊娠・出産した場合は、監督機関への届け出が必要です。

また、デンマークではドナーに支払う補償金額が定められています。1回の提供につき、ESBでは300デンマーククローネ(約5,000円)が支払われ、ひと月に4-10回の提供を行います。クリオスでは250デンマーククローネが支払われます。特別な事情がある時に限り、1回の提供あたり500デンマーククローネまでの支払いが認められています。

一方で、買い手が精子への対価として精子バンクに支払う金額に制限はありません。ESBでは人工授精1回分の精子が274~529ユーロで販売されており、精子の洗浄状態とドナーの匿名性の有無によって値段が変わります(詳細は後述)。クリオスでは同一ドナーの精子であっても運動精子数によって値段が変動しますが、価格はESBとほぼ同水準となっています。

続きは、精子バンクで子どもを持つということ② コペンハーゲンの精子バンク、European Sperm Bankを見学。をご覧ください。

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