精子バンクで子どもを持つということ②

コペンハーゲンの精子バンク、European Sperm Bankを見学。

精子バンクで子どもを持つということ②

コペンハーゲンの精子バンク、European Sperm Bankを見学。

Coel運営チーム

掲載日:2017年9月13日

European Sperm Bank:安全な精子を世界中へ

デンマークの精子バンク、といえば世界一の規模(ドナー数)を誇るクリオスが有名ですが、このクリオス出身のPeter Bower博士が2004年に立ち上げたのがESBです。「安全で透明性が高く利用しやすい精子バンクをつくる(訳:Coel運営チーム)」というミッションのもと、運動率の高く良質な精子を厳しい選考を勝ち抜いたドナーから集め、デンマーク国内へはもちろん、60か国を超える国の人々へ届けています。これまでにESBのドナーから生まれた子どもの数は、25,000人を超えているとのこと。1人のドナーから生まれる子どもの数を各国の法律に準拠して管理しながらも、たくさんの子どもたちとその家族の笑顔を作っています。

精子を購入したい人向けにはEuropean Sperm Bankという名称で、精子を提供したい人向けにはNordic Cryobankという名称でサービスを行っています。

現在のドナー数は、HP上で販売されている精子のドナーだけで248名です。その大部分は白人を中心とするデンマーク系ドナーですが、アジア人及びアジア系のハーフも何人か含まれています。このほかに、まだ商品化していない(=選考プロセスが完了していない)ドナー精子や、既にドナー精子で子どもを産み、同じ精子で兄弟を持ちたい人へのみ販売するドナー精子があります。

まるでIT系スタートアップ?!な精子バンクのオフィス

ESBのオフィスはコペンハーゲンで最もホットな地域の1つ、Norrebroにあります。若者が集い、話題のレストランやお洒落なカフェが多く見つかるエリアで、ニューヨークで言うところのBrooklinのような街並みです。オフィスは赤煉瓦の建物の2階にあり、内装はまるでIT系スタートアップのようでした。詳細はこちらに記載していますのでご覧ください。

開放的な受付のすぐ後ろには精液検査室があります。

優しい色合いが心を和ませるオフィス。

このオフィスのほかに、コペンハーゲン郊外のKongens Lyngby地区およびデンマーク第二の都市であるAarhusにラボを所有しています。

長く険しいドナー選定プロセス

ドナーの選定は、精子バンクのビジネスの肝となる部分です。唯一の商品である精子の質を担保し、向上させていくことにより、個人はもちろん、国内外の優良クリニックからの注文を維持・拡大していくことができます。そして、精子やドナー情報に瑕疵が見つかると、その信頼性は一気に失われてしまいます。

ESBではMOT+20(Motile Total: 1ミリリットルあたり運動精子数が2000万個以上)の優良精子、つまり妊孕性の高い精子だけを販売しています。ドナー本人のみならずその祖父母まで遡って重大な遺伝性疾患がないかどうかを調べ、性格テスト・カウンセリングなどを行い、候補者がドナーに相応しいかどうかを判断します。選定率は5-7%(!)と極めて厳しく、エリート精子の集まりと言うことができるでしょう。

ドナーになることができるのは、18-40歳の健康な男性です。希望者は以下のプロセスを経てドナーとして選定されます。

ドナー申込フォームの一部(ESB HPより)

ドナー申込フォームの一部(ESB HPより)
  1. 1. 申込書の提出

    ESBのHPを通じて申込フォームに入力します(対面・郵送での申し込みも行われています)。この申込書には、名前、生年月日、居住地(郵便番号まで)、身長・体重、学歴、職業、連絡先メールアドレスを記載し、初回面談を希望するオフィスの場所と時間帯も入力します。

  2. 2. 初回面談

    ESBの3か所のオフィスのいずれかにて、15分間程度の面談を行います。ドナー・コーディネーターによって、ドナー本人及びその家族に重大な遺伝的疾患がないことが確認されます。

  3. 3. 精液検査 1回目

    初回面談の際、ESBのオフィスで採精する必要があるため、あらかじめ48時間の禁欲期間を設けておきます。精液検査では、各種感染症の検査に加えて、MOT+20かどうか、精子が凍結と解凍に耐える能力を持っているかどうかを確認します。

  4. 4. カウンセリング

    ESBのオフィスでカウンセリングを行い、精子ドナーになることの意義や責任、ドナーとして匿名性(anonymity)を持つかどうかといったことを話し合います。

  5. 5. 精液検査 2回目

    精子の状態は採精する毎に変化するため、複数回にわたり調べる必要があります。2回目の精液検査では、1回目と同様に感染の有無、精子運動率と凍結・解凍に耐える能力の有無を見ます。

  6. 6. 健康診断

    病院にて医師による健康診断を受け、現時点で異常がないこと、何らかの病気にかかっていないことを確認します。

  7. 7. 血液検査・尿検査

    血液検査、ヘモグロビン電気泳動、生化学検査、尿検査、感染症検査、遺伝子検査、染色体分析を行います。

  8. 8. 性格診断テスト

    世界中で用いられているKeirsey Personality Testを受験し、ドナーの性格を16タイプに分類します。

  9. 9. カウンセリング、追加情報の記入

    再度のカウンセリングとともに、音声インタビューの録音や、追加情報の記入を行います。

  10. 10. ESBのメディカル・ドクターによる承認

    ESBのメディカル・ドクターが最終的な承認を行い、晴れてドナーとなります!

ドナーにふさわしいかどうかは医師に加えてスタッフも判断する

上記プロセスの過程で、ドナーはESBのオフィスへ何度か足を運ぶことになり、ESBのスタッフと関わる機会を多く持ちます。プロセスが終了する頃には、スタッフがドナーの人となりをよく知るようになります。そして、上記の形式的な審査に加えて、ESBの女性スタッフがドナーと部屋に二人きりになった際に居心地の悪さを感じないかどうか、ということも判断材料の1つとして考慮しています。ドナーのパーソナリティを選考基準の1つとして明示しているのです。精子購入希望者は、当該ドナーにつきスタッフがどんな印象を持ったかということを購入前に知ることができます。

ドナーに選ばれたら、継続的な精子提供を行う

ドナーに選ばれた人は、毎月4-10回の精子提供を行い、その都度300デンマーククローネ(約5,000円)を受領します。回数を重ねると追加のボーナスが支給され、1か月に最大で合計3,600デンマーククローネ(約6万円)を受領することができます。

精子の安全性を担保するため、ドナーは自宅ではなくESBのオフィスで採精した精液を提出する必要があります。この訪問の手間やドナーとしての責任に対する補償として対価が支払われています。

こちらが採精用の部屋の1つ。ESB本社には5つの部屋があり、どの部屋が使用中か廊下のランプで分かるようになっています。

こちらが採精用の部屋の1つ。ESB本社には5つの部屋があり、どの部屋が使用中か廊下のランプで分かるようになっています。

ドナーのカウンセリングはこちらの部屋で行います。

ドナーのカウンセリングはこちらの部屋で行います。

精子バンクの精子は本当に安全なのか?

ESBはDanish Health Authorityの規制に従って精子を選定しており、これはEUの要求水準を上回る厳しい基準となっています。通常、ドナーから得た精子を検査後に凍結保存し、180日間の検疫期間を経て核酸増幅テスト(NAT)により再度検査を行ってから提供しています。HIVなどの幾つかの病気は発症まで潜伏期間を持ち、提供時点で検出できないことがあります。よって、本来であればフレッシュな精子の妊孕性の方が高いものの、凍結保存を経てその安全性を高めることが義務付けられています。(自分の夫の精子を使用して不妊治療を行う場合は、その安全性が保障されているという前提で、フレッシュな精子を使用することが一般的です。)

射出した精液はオフィス内ですぐに検査します。精密検査では外部の検査機関も利用しています。

射出した精液はオフィス内ですぐに検査します。精密検査では外部の検査機関も利用しています。

射出した精液はオフィス内ですぐに検査します。精密検査では外部の検査機関も利用しています。

ドナーは、選ばれた後も定期的に検査を受け、また提供する度にサンプルの一部を使った精液検査を行っています。

しかしながら、どれだけ厳格な検査を行っても、すべての病気を検出できるわけではありません。ESB曰く、完璧な精子というものはなく、遺伝的疾患を持つドナーを100%排除することはできないとのこと。

とはいえ、リスクを最大限減らすことは精子バンクの責任です。その取り組みの一つとして、ESBではヨーロッパの精子バンクとして唯一、嚢胞性線維症と脊髄性筋萎縮症のスクリーニング検査を行っています。

続きは精子バンクで子どもを持つということ③ 精子の値段は?ドナー精子で生まれた子供たちをどう守る?をご覧ください。

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