精子バンクで子どもを持つということ③

精子の値段は?ドナー精子で生まれた子供たちをどう守る?

精子バンクで子どもを持つということ③

精子の値段は?ドナー精子で生まれた子供たちをどう守る?

Coel運営チーム

掲載日:2017年9月13日

精子はオンラインで購入できる

さて、ドナーが厳しく選定されることはお分かり頂けたかと思いますが、この貴重な精子を購入するにはどうしたらよいのでしょうか?

購入希望者は通常ESBのオフィスに足を運ぶ必要はなく、オンラインでドナーを選び、注文します。メールや電話での問い合わせには、デンマーク語のみならず英語でも対応して頂けます。

まず、ESBのHPにてドナー検索ページへ進むと、あなたの国籍と治療を行う国を選択する画面が出てきます。これは、精子バンクに関連する法律・規制が国ごとに異なっており、使用できる精子ドナーの種類も変わってくるためです。特に、同一ドナーによる出産人数の制限と後述の「出自を知る権利」の保障に関する規制によって選択肢が大きく変わってきます。

ドナー検索画面(ESBのHPより)

ドナー検索画面(ESBのHPより)

今回はデンマーク人がデンマークでの治療を受けるというシチュエーションの選択肢を選び、先に進みます。

選択可能なドナーは248名いるとのこと。ドナー情報の一覧が表示されました。

選択可能なドナーは248名いるとのこと。ドナー情報の一覧が表示されました

ハンドルネーム、ステイタス(匿名ドナーか、オープンドナーか)、専攻、人種、目と髪の毛の色、身長、体重、血液型、在庫の有無、新規ドナーかどうかが記載されています。

左側の詳細検索欄にて人種や目の色などを選択し、候補者をさらに絞っていきます。ここではアジア人のオープンドナーを選んでみると、ドナーは6名まで絞られました。この中で、Cornelioさんというハンドルネームの方を選んでみると、詳細な情報が表示されました。

左側の詳細検索欄にて人種や目の色などを選択し、候補者をさらに絞っていきます。ここではアジア人のオープンドナーを選んでみると、ドナーは6名まで絞られました。この中で、Cornelioさんというハンドルネームの方を選んでみると、詳細な情報が表示されました。

ここには、以下のようなことが英語で書いてあります。

“Cornelioさんは茶色の目と黒い髪を持ち、身長169cm、体重72㎏です。ジャーナリズムを専攻する学生であり、報道写真家として働いています。自由時間にはスポーツ、自然、たとえば森でのサイクリング、写真、読書、旅行を楽しんでいます。彼自身は、自分のことを内向的で好奇心旺盛、冒険好き、と表現しています。彼は、ほかの人の助けになりたくてドナーになりました。

<スタッフの印象からの抜粋>

Cornelioさんはとても素敵で穏やかな性格の持ち主です。彼はジャーナリズムを学び、世界中を旅することが好きで、将来のキャリアとして考えているフォトジャーナリズムに大変打ち込んでいます。彼はベトナム系で、とてもシンプルな人生の目的を持っています:それは、充実した人生を送るということです。・・・・・”(翻訳:Coel運営チーム)

この先を読むためには、会員登録を行う必要があります。すべてのドナーの詳細情報へアクセスする権利は半年間100ユーロで購入することができます。スタッフの印象に加えて、本人直筆のメモ、音声インタビュー、性格診断テストの結果、子ども時代の写真などを含む詳細プロフィールを確認することができます。

精子の値段:ドナーの顔や学歴ではなく、使用条件によって価格が決まる

気に入ったドナーが見つかったら、オンラインで注文することができます。精子の代金は以下の通り定められています。

1ユニット当たり税抜価格 ICI IUI
匿名ドナー €274 €342
オープンドナー €489 €529
北米のオープンドナー €589 €629

ICI (intracervical insemination):子宮頸管内人工授精

IUI (intrauterine insemination) :子宮腔内人工授精

IUI用精子は、精子細胞を密度勾配遠心法により精液から分離し、洗浄後に凍結保存液を加えて凍結されています。ICI用精子に分離・洗浄工程が加わるため価格が高くなります。

通常、クリニックでの人工授精・体外受精においてはIUI用精子を使用することが一般的ですが、特殊な治療に使用する場合や、子宮ではなくその入り口の子宮頸管への精子注入を行う自宅での人工授精の場合は、ICI用精子を使用します。

ICI/IUI以外の価格変動要因は、ドナーの匿名性です。オープンドナーの場合は、ドナー精子によって生まれた子どもが一定の年齢に達した際にドナーの氏名や居住地などの個人情報が開示され、ESBを通じて子どもから連絡がくる可能性があります。北米のオープンドナーの場合は、さらに輸送費と取扱手数料が上乗せされます。

一方で、匿名ドナーの場合は、子どもたちは遺伝上の父親に連絡することができず、ドナー情報の追加的な開示はありません。

匿名性の有無は、ESBで説明を受けた後にドナー自身が決定します。ESBのオープンドナーの数は100名(HP掲載分のみ)で、全体の約4割を占めています。

精子の値段に加えて、配送費用(例:デンマーク国内ならば100ユーロ、ヨーロッパ内ならば275ユーロ)がかかります。自宅への配送の場合はそれ以上の費用はかかりませんが、病院での人工授精や体外受精に使う場合は、別途病院での凍結保管料や、人工授精・体外受精の費用を病院へ支払います。

また、同一ドナーにより兄弟を持つことを希望する場合など、精子をあらかじめ多めに購入し、ESBのラボにて最大20年間保管することもできます。保管料(例:3年間405ユーロ、10年間1,065ユーロ)が追加でかかります。

精子バンクから世界中の病院へ!

購入した精子は、基本的には自分が指定した病院へ航空便で配送されます。

この細長いストローの中に1回分の凍結精子が入っています。購入した本数を小さなドライシッパー(液体窒素タンク)に入れ替え、約マイナス190度を維持した状態で輸送します。

この細長いストローの中に1回分の凍結精子が入っています。購入した本数を小さなドライシッパー(液体窒素タンク)に入れ替え、約マイナス190度を維持した状態で輸送します。

ドライシッパーは、このキノコ型のケースに入れられて立てた状態で輸送されます。

ドライシッパーは、このキノコ型のケースに入れられて立てた状態で輸送されます。

病院に届いた精子はしかるべきタイミングで解凍され、洗浄が必要な場合は洗浄された後、人工授精または体外受精に使用されます。

ESBでは患者の自宅への配送も行っており、シリンジ(注射器)を使って自分で精子を注入して人工授精を行うことも可能です。但し、適切なタイミングで適切な場所に注入することは簡単ではなく、また国によっては輸入許可証などが必要となるケースもあり、ほとんどの方が病院への配送を希望するそうです。

出自を知る権利 – 保障される国、されない国、自由に選べる国

ドナーの匿名性は、生まれた子どもが出自を知る権利と大きく結びついています。

1989年、国連総会において「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」(出所6)が採択され、日本も1994年にこれを批准しました。この第7条に、「児童は、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」との規定があります。子どもの権利条約は、第三者からの精子・卵子・胚の提供によって生まれた子どものためというよりは、戦争や貧困に見舞われ、世界中で厳しい暮らしを送る子どもたちの権利を守るために制定された条約なのですが、これに従って子どもが「出自を知る権利」を保障しようという動きが幾つかの国で起こりました。

イギリスでは、生まれた子どもは16歳になった時にドナーの情報を個人を特定できない範囲で得ることができます。この内容は、ESBの非匿名ドナーが開示している情報と概ね同じです。さらに18歳になった時には氏名、生年月日、直近の住所などを知ることができます。

デンマークでは、前述のとおりドナーの匿名性をドナー自身が選択することができ、また購入者側もデンマーク国内で利用するのであればどちらのタイプを購入するか自由に選択することができます。アメリカでもこの点は自由に選択されています。

日本には、出自を知る権利の保障を規定する法律はありませんが、日本産科婦人科学会の“見解(出所7)”に従って精子提供者を匿名とし、出自を知る権利を保障していません。全国14か所の病院にて、ボランティアによって提供された精子を使った非配偶者間人工授精(AID)が行われ、毎年100名前後の子どもたちが生まれています。被提供者には血液型以外の情報は与えられず、生まれた子どもたちもドナーについての情報を得ることはできません。それどころか、第三者の精子によって生まれたという事実すら子供たちに告知されていないケースが多くあるようです。

提供精子を使った人工授精は日本で1948年から行われてきましたが、多くの医師は当事者に対して、家族以外にはその事実を隠すようにと指導してきました。子どもに対しては告知する必要がないという考え方が主流でした。出自を知る権利を巡る議論が活発化する中で、しかるべきタイミングで子どもに告知することを促す医師やカウンセラーが増えてきています。

日本社会は精子バンクを受け入れることができるか?

ESBのオフィスに、たくさんの手紙が飾られているエリアがありました。ドナー精子を使って妊娠・出産した方々からの感謝の手紙です。子どもを持つことを諦めていたカップルや、信頼できるパートナーと出会えていないシングルの女性が、精子バンクを通じて親となることができました。その喜びは計り知れないものでしょう。

しかし、親の喜び以上に社会が配慮していかなければならないのは、生まれた子どもの幸せです。ここ数年、AIDによって生まれた子どもたちが、出自を知る権利の保障を求めて声を上げる事例が散見されるようになりました。親から出自の告知を受けておらず、突発的に真実を知ることとなった子どもたちの中には、親子の信頼関係が失われてしまった例が少なくなく、AID自体に反対している人もいます。では、幼いころから出自の告知を受けて育った場合はどうでしょうか?日本では告知しないことを前提としてAIDが行われてきたため、そのような方は極めて限られていますが、少なくとも海外では自らの出自を受け入れ、遺伝上の兄弟をインターネット上で探して交流するような前向きな事例が多くみられます。

出自を知る権利の扱いを含む、非配偶者間生殖医療を規定する法案が自民党内で作成されており、その成立が待たれています。法制化によって、こうした医療行為がより安全性・透明性の高い形で行われるようになるでしょう。出自を知る権利の落としどころは分かりません。しかし、現行の制度よりは子どもの権利を尊重するものになることでしょう。社会が非配偶者間生殖医療について知るきっかけにもなるでしょう。そして、日本でももしかしたら公営または民営の精子・卵子バンクが設立されるようになるかもしれません。その時、あなたはドナーになりますか?そして、第三者の精子・卵子で子どもを持つということをどう考えますか?

<出所>

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