病院の情報が足りない!

先週末、不妊カウンセリング学会の不妊カウンセラー・体外受精コーディネーター養成講座が開催されました。

私は昨年からこの学会に所属しており、年に2回開催されている養成講座に参加するのは今回で3回目。

やっと不妊カウンセラーの認定試験を受験する資格が得られました。(といっても試験は年明けのようですが。)

 

今回の養成講座の中では、アメリカのCDC(Center for Disease Control and Prevention:疫病予防センター)が行っている国内での不妊治療に関する情報開示について説明がありました。

前々から何度かサイトを眺めていたのですが、改めて日本との情報量の差に驚きました。

全米463件の登録施設における体外・顕微受精件数や出生者数などのマクロデータはもちろんのこと、個別の病院名を出してそれぞれにおける体外・顕微授精件数や患者さんの平均年齢、妊娠率まで公開しているのです。

例えば、NYにあるコーネル大学附属病院の2015年の実績は以下の通り。

(出所:CDCホームページ

この病院では、2015年に5,031周期の治療が行われ、1,233人の赤ちゃんが生まれています。

アメリカ全体では231,936周期、60,778人の赤ちゃんが生まれており(ちなみに、日本は同年のデータで、249,411周期、10,105人。)当院は治療周期・出生数共に全体の2%を占める全米屈指の不妊治療クリニックと言えるでしょう。

上の表にはノンドナー(つまり配偶者間)の体外・顕微授精に関する臨床データが年齢別にずらりと並んでいます。

日本では年々凍結胚移植が主流となってきていますが、アメリカではまだまだ新鮮胚移植の比率が高く、この病院でも全ての年齢レンジにおいて新鮮胚移植をメインとする体外・顕微授精が行われています。

新鮮胚移植の移植当たり妊娠率は、34歳以下で44.2%、35-37歳で39.2%、38-40歳で24.7%、41-42歳で16.5%、43-44歳で6.7%、45歳以上で1.6%。

但し、一度の移植において原則1個の胚しか戻すことのできない日本と異なり、アメリカでは2個、3個の胚の移植が一般的に行われていますので、移植当たりの妊娠率も高くなる傾向にあります。

この病院でも40代は一度に平均2個以上の胚を移植しています。

上の表の下にはドナー(非配偶者間)の体外・顕微授精に関する臨床データが続きます。

 

国(学会)が各クリニックからデータを集約するところまでは日本も同じなのですが、そのデータをどこまで公開するかという点でアメリカとは大きな違いがあります。

アメリカ同様、イギリスでもクリニック毎のデータが開示されています。

これは患者さんにとって大きなメリットですが、一方で妊娠率を上げるために複数胚移植の比率が増えたり、難治性疾患を持つ患者さんが受け入れてもらえなかったり、といったことが起きている可能性もあります。

日本では、国や学会による情報提供が限定的であるため、患者さんがインターネット上の様々な情報に翻弄されてしまう部分がありますよね。

患者の知る権利がもっと尊重されていかなければなりませんし、各クリニックにももっと緊張感を持って情報開示を行って頂きたいものです。

コエルでは個別の病院の妊娠率のデータもこれから比較しやすい形で公開していきたいと考えていますが、そもそもすべての病院がデータを公開しているわけではないというのが残念なところです。

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大学病院と不妊治療クリニックの融合型施設

縁あって、獨協医科大学埼玉医療センターの岡田弘先生を訪問する機会に恵まれました。

岡田先生は泌尿器科医で、男性不妊治療の第一人者としてご活躍されています。

これまでも岡田先生の講演を聞いたり、直接お話させて頂いたりする機会はあったのですが、今回は獨協医科大学埼玉医療センターに設置されているリプロダクションセンターについて詳しくお伺いし、患者の皆さんにもご紹介したいと思いましたのでこちらに記載させて頂きます。

獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンターのHP

獨協医科大学埼玉医療センター リプロダクションセンターの特徴

  1. 大学病院内だが産婦人科からは組織も場所も独立した不妊治療センター
  2. 日本では数少ない男性不妊専門医が複数名所属し、症例数は日本一
  3. Fresh ICSI(精巣などから採取した精子を凍結せずに当日行う顕微授精)が可能
  4. 大学病院なのに平日夕方や土曜も診療
  5. 体外・顕微授精に加えて、内視鏡手術やがん患者様向けの妊孕性温存、妊娠時の分娩まで対応

それぞれにつき、以下で説明します。

 

1.大学病院内だが産婦人科からは組織も場所も独立した不妊治療センター

大学病院で不妊治療を行う場合、大体は産婦人科の中に不妊外来が設置されており、産科に通院する妊婦さんと一緒に待合室に座る必要があります。

不妊外来を担当する医師は1,2名しか在籍していないことが一般的で、外来の曜日や時間に制限があることがほとんどです。

当院の場合は、産婦人科とは別フロアにリプロダクションセンターが設置されています。

大学病院の中に不妊治療クリニックが入っているかのような佇まいに安心して通院することができます。

男性不妊・女性不妊ともに月曜から土曜(第3土曜のみ休診)まで毎日診察を行っています。

 

2.日本では数少ない男性不妊専門医が複数名所属し、症例数は日本一

そもそも全国に50名程度しか存在しない、男性不妊専門医。

そのうちの5名が当院に所属しており、毎日診察や手術を行うことで高い専門性を有しています。

2016年度には、MD-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)を120件、精索静脈瘤低位結紮術を67件行っています。

当院の先生方は様々な不妊治療クリニックで週1,2回の男性不妊外来を担当されており、また当院で研修・臨床を行って巣立っていった専門医もたくさんいらっしゃるとのことです。

 

3.Fresh ICSI(精巣などから採取した精子を凍結せずに当日行う顕微授精)が可能

無精子症の治療のため Conventional TESE(精巣精子採取術)や MD-TESE(顕微鏡下精巣精子採取術)などの手術を行う場合、通常は採取できた精子を一度凍結し、女性の採卵ができたタイミングで融解し、受精させます。

女性の採卵のタイミングは排卵に合わせて決まるため、直前にならなければスケジュールを組むことができない一方、男性のTESE手術を行うことのできる施設は限られており、数か月前から予約をとる必要があります。

そもそもプライベートの不妊治療クリニックには、男性不妊外来は設置していてもTESE用の手術室が用意されておらず、結局手術のために大学病院に来なければならないケースも。

この男女の治療のタイミングを合わせるのは難しく、やむを得ず精子を一度凍結することになります。

しかし、当院では男性と女性を同時に治療できる大学病院であるというメリットを最大限活用し、男女両方の準備を同時に進め、女性の採卵と同日にTESE手術を行うことが可能となっています。

こうして採取したばかりの精子を凍結せずに顕微授精することを、Fresh ICSIと呼びます。

精子の運動率は凍結することで少し下がってしまいますし、そもそもTESE手術によって採取できる精子の量や質には制限があることも多いため、Fresh ICSIができることは妊娠率の向上に直結します。

 

4.大学病院なのに平日夕方や土曜も診療

多くの大学病院は土曜が休診ですが、当院は土曜の午前中も診療しています。

平日午後の診療は16時から始まるため自宅や職場が近ければ仕事の後に通院することも可能です。

今後診療時間をさらに延ばすことも検討しているとのこと。

ちなみに立地は、新越谷駅または南越谷駅から徒歩3分。病院まで都心から電車で通う場合は、東京駅から約50分、新宿駅から約45分、渋谷駅から約50分かかります。

 

5.体外・顕微授精などに加えて、内視鏡手術やがん患者様向けの妊孕性温存、妊娠時の分娩まで対応

大学病院の不妊外来では、人工授精までしか対応できないケースが多々ありますが、当院ではタイミング法・人工授精はもちろんのこと、体外受精・顕微授精まであらゆる治療に対応しています。

大学病院の一般的な強みである、内視鏡手術やがん患者様向けの精子・卵子の凍結による妊孕性温存治療も行っています。

また、高齢の不妊患者さんが増えて妊娠・分娩のリスクが増す中で、大学病院として分娩やその後の小児科での経過診察まで、一括で行えることの安心感もあります。

 

上記の通り、大学病院と不妊治療クリニックの良いところを組み合わせたかのような特徴を持つのが、獨協医科大学埼玉医療センターのリプロダクションセンターです。

通える距離にある患者さんは、ぜひ通院先の選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。

岡田先生の著書「男を維持する「精子力」」も、楽しみながら読める男性不妊の本として男女両方にオススメします。

注:Coelでは、病院から広告掲載料などを頂戴することはせず独自の視点で中立的な立場から病院を紹介させて頂いております。

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受精卵は誰のもの?~「ザ・グッド・ファイト」より~

私は子供の頃から海外ドラマを見ることが好きです。

子育てに追われる今は、料理やメイクをしながら慌ただしく見るしかありませんが、日本のドラマと比べてストーリーの展開が早いので、10分程度の細切れの視聴でも楽しめてしまうところが好きです。

 

 

今ハマっているのは「the good fight」(邦題:ザ・グッド・ファイト)というアメリカの法廷ドラマ。

2009年から2016年にかけて放映され、シーズン7まで続く大ヒットとなった「the good wife」(邦題:グッド・ワイフ)のスピンオフドラマで、昨年公開されたものです。

(CBSのHPより画像をお借りしました。)

弁護士事務所の代表を務めるほどのベテラン弁護士から、司法試験に合格したばかりの新人弁護士まで、様々な女性弁護士がキメキメのファッション&セリフで活躍する姿が、とても刺激的。

弁が立つとはこういうことか、と思わせてくれるセリフばかりです。

 

このドラマのSeason1 第4話は、大変興味深いテーマでした。

「Henceforth Known as Property」、日本語では「財産」というタイトルがついたエピソードなのですが、受精卵の所有権を巡り、卵子提供者(ドナー)と不妊治療中の夫婦が法廷で争います。

ドナーは若い頃に12個の卵子を2万ドルで提供しました。

その際、被提供者が5年以内に妊娠を完了しなかった場合、卵子は財産と見なされ被提供者ではなくドナーに所有権が戻るという解除条項の付いた契約を結びました。

その後、ドナーは卵巣がんに罹りました。病気は克服しましたが、治療によって自身の卵子を使用することができなくなってしまいました。

提供から8年経った今、ドナーは子どもを望み、提供した卵子がもし残っていたらそれを使って妊娠したいと考えたのです。

しかし、卵子を凍結保存していた病院が2年前に経営難で閉鎖され、彼女の卵子は他の病院へと勝手に譲渡され、11個が受精後に廃棄、1個が他の夫婦によって購入されていたのです。


(培養中の受精卵の写真。受精卵は、女性の身体に戻す前の段階で既に生きている。)

 

この夫婦の女性側には、リー症候群(ミトコンドリア病とも呼ばれる)という遺伝性疾患のマーカーがありました。

自身の卵子で妊娠するとこの難病が遺伝し、流産したり、生まれた子供が長く生きられなかったりする可能性が高くなります。

しかし、最新技術であるミトコンドリア置換法を用いることで、疾患の遺伝を回避できる可能性が出てきました。

夫婦の受精卵と、ドナーの卵子と夫の精子を受精させてつくった受精卵の2つを用意し、後者から核を取り除き、前者の核を注入することにより、遺伝性疾患を取り除いた受精卵を作成します。

ミトコンドリア置換法は、3人の人間の遺伝子によって1個の“正常”な受精卵を作る試みなのです。

 

この手法は、ドラマが放映された2017年時点ではアメリカでは承認されておらず、2015年から承認されているイギリスにて翌週に移植するというストーリーが展開されていました。

実際に、この手法によってメキシコやイギリスで子どもが生まれており、国境を越えて治療を行う患者・医師も多いようです。

しかし、疾患が完全に取り除けるかどうかはまだ不透明であり、また生まれる子供の遺伝子の改変を行うことについての意見も分かれています。

日本にも1,000人以上の患者さんがおりますが、現状ミトコンドリア置換法を取り締まる法律・ルールはないため、今後遠くないタイミングでこの手法の是非が議論に上がってくるのではないかと思います。

 

ドナーは、自身の卵子が例えこの「見知らぬ男性」の精子との間で受精したものであっても取り戻したいと考え、裁判を起こしました。

遺伝上の父親が誰であってもよいから、自分の卵子を使って妊娠を試みたいと。そして、生まれた子を自分の手で育てたいと主張しました。

これはアメリカらしい主張かもしれません。シングルの女性が、精子バンクのドナー精子を使って妊娠し、シングルマザーとして子どもを産み、育てていくことが一定程度普及している国です。

日本であれば、いくら自分と血が繋がっていても、知らない人との間の子どもを産むというのは抵抗のある方が多いでしょう。

 

一方で、購入した夫婦は、ドナーと病院との間での契約など知らずに卵子を購入しました。

アメリカの財産法では、買主が善意の場合、所有権は買主に移ります。

よって、ドナーとこの夫との間の受精卵は、夫婦の所有物として認められました。

さて、ドナーは泣き寝入りするしかないのでしょうか・・・?

 

続きはぜひドラマをご覧ください。

the good wife, the good fight共にamazon primeで見放題です。

 

日本では精子・卵子提供がほとんど行われていませんので、提供精子・卵子の所有権をめぐりこのような争いが起きることも想定しにくいのですが、もっと重要なことに、こうして第三者を介して生まれた子どもたちにつき、誰が父親・母親なのかを規定する法律がありません。

他の先進国ではとっくに規定されており、子どもの人権にかかわる問題が日本では長年放置されているのです。

ミトコンドリア置換法以外にも様々な生殖医療技術が発展する中で、常に最優先されるべき「子供の人権」を守るための法律が規定されていないというのは、日本での生殖医療の発展を脅かす事実だと感じます。

 

<ご参考>

ミトコンドリア置換法については、クマムシ博士のブログでの説明が大変分かりやすかったです。

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