受精卵は誰のもの?~「ザ・グッド・ファイト」より~

私は子供の頃から海外ドラマを見ることが好きです。

子育てに追われる今は、料理やメイクをしながら慌ただしく見るしかありませんが、日本のドラマと比べてストーリーの展開が早いので、10分程度の細切れの視聴でも楽しめてしまうところが好きです。

 

 

今ハマっているのは「the good fight」(邦題:ザ・グッド・ファイト)というアメリカの法廷ドラマ。

2009年から2016年にかけて放映され、シーズン7まで続く大ヒットとなった「the good wife」(邦題:グッド・ワイフ)のスピンオフドラマで、昨年公開されたものです。

(CBSのHPより画像をお借りしました。)

弁護士事務所の代表を務めるほどのベテラン弁護士から、司法試験に合格したばかりの新人弁護士まで、様々な女性弁護士がキメキメのファッション&セリフで活躍する姿が、とても刺激的。

弁が立つとはこういうことか、と思わせてくれるセリフばかりです。

 

このドラマのSeason1 第4話は、大変興味深いテーマでした。

「Henceforth Known as Property」、日本語では「財産」というタイトルがついたエピソードなのですが、受精卵の所有権を巡り、卵子提供者(ドナー)と不妊治療中の夫婦が法廷で争います。

ドナーは若い頃に12個の卵子を2万ドルで提供しました。

その際、被提供者が5年以内に妊娠を完了しなかった場合、卵子は財産と見なされ被提供者ではなくドナーに所有権が戻るという解除条項の付いた契約を結びました。

その後、ドナーは卵巣がんに罹りました。病気は克服しましたが、治療によって自身の卵子を使用することができなくなってしまいました。

提供から8年経った今、ドナーは子どもを望み、提供した卵子がもし残っていたらそれを使って妊娠したいと考えたのです。

しかし、卵子を凍結保存していた病院が2年前に経営難で閉鎖され、彼女の卵子は他の病院へと勝手に譲渡され、11個が受精後に廃棄、1個が他の夫婦によって購入されていたのです。


(培養中の受精卵の写真。受精卵は、女性の身体に戻す前の段階で既に生きている。)

 

この夫婦の女性側には、リー症候群(ミトコンドリア病とも呼ばれる)という遺伝性疾患のマーカーがありました。

自身の卵子で妊娠するとこの難病が遺伝し、流産したり、生まれた子供が長く生きられなかったりする可能性が高くなります。

しかし、最新技術であるミトコンドリア置換法を用いることで、疾患の遺伝を回避できる可能性が出てきました。

夫婦の受精卵と、ドナーの卵子と夫の精子を受精させてつくった受精卵の2つを用意し、後者から核を取り除き、前者の核を注入することにより、遺伝性疾患を取り除いた受精卵を作成します。

ミトコンドリア置換法は、3人の人間の遺伝子によって1個の“正常”な受精卵を作る試みなのです。

 

この手法は、ドラマが放映された2017年時点ではアメリカでは承認されておらず、2015年から承認されているイギリスにて翌週に移植するというストーリーが展開されていました。

実際に、この手法によってメキシコやイギリスで子どもが生まれており、国境を越えて治療を行う患者・医師も多いようです。

しかし、疾患が完全に取り除けるかどうかはまだ不透明であり、また生まれる子供の遺伝子の改変を行うことについての意見も分かれています。

日本にも1,000人以上の患者さんがおりますが、現状ミトコンドリア置換法を取り締まる法律・ルールはないため、今後遠くないタイミングでこの手法の是非が議論に上がってくるのではないかと思います。

 

ドナーは、自身の卵子が例えこの「見知らぬ男性」の精子との間で受精したものであっても取り戻したいと考え、裁判を起こしました。

遺伝上の父親が誰であってもよいから、自分の卵子を使って妊娠を試みたいと。そして、生まれた子を自分の手で育てたいと主張しました。

これはアメリカらしい主張かもしれません。シングルの女性が、精子バンクのドナー精子を使って妊娠し、シングルマザーとして子どもを産み、育てていくことが一定程度普及している国です。

日本であれば、いくら自分と血が繋がっていても、知らない人との間の子どもを産むというのは抵抗のある方が多いでしょう。

 

一方で、購入した夫婦は、ドナーと病院との間での契約など知らずに卵子を購入しました。

アメリカの財産法では、買主が善意の場合、所有権は買主に移ります。

よって、ドナーとこの夫との間の受精卵は、夫婦の所有物として認められました。

さて、ドナーは泣き寝入りするしかないのでしょうか・・・?

 

続きはぜひドラマをご覧ください。

the good wife, the good fight共にamazon primeで見放題です。

 

日本では精子・卵子提供がほとんど行われていませんので、提供精子・卵子の所有権をめぐりこのような争いが起きることも想定しにくいのですが、もっと重要なことに、こうして第三者を介して生まれた子どもたちにつき、誰が父親・母親なのかを規定する法律がありません。

他の先進国ではとっくに規定されており、子どもの人権にかかわる問題が日本では長年放置されているのです。

ミトコンドリア置換法以外にも様々な生殖医療技術が発展する中で、常に最優先されるべき「子供の人権」を守るための法律が規定されていないというのは、日本での生殖医療の発展を脅かす事実だと感じます。

 

<ご参考>

ミトコンドリア置換法については、クマムシ博士のブログでの説明が大変分かりやすかったです。

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参考にすべき不妊治療専門医ブログ

不妊治療中の患者さんが活用している、不妊治療専門医のブログを紹介させて頂きます。

診察中、多忙な医師から丁寧な説明を受けるのはなかなか難しいですが、こうしたブログを通じて私たちの知りたいことを丁寧に説明して頂けるのはありがたい限りですね。

 

生殖医療専門医によるブログ

1. 松林秀彦先生(リプロダクションクリニック東京/大阪)

リプロダクションクリニック大阪の院長を務める、松林先生のブログ。

大学を卒業した1988年以降、約30年に渡り一貫して不妊症・不育症の診療・研究に携わってきた先生が、海外の論文などの最新情報を分かりやすく発信してくれています。

リプロダクションクリニックでは男性不妊の治療も行っているため、精子やTESEなど男性不妊に関する情報も多く掲載されています。

 

2. 両角和人先生(両角レディースクリニック)

東京・銀座にある両角レディースクリニックの両角院長のブログ。

患者さんからの良くある質問への回答が、高い頻度で掲載されています。

先生が留学していたハワイの情報も満載の、息抜きしながら読めるブログです。

 

3. 林篤史先生(山下レディースクリニック)

兵庫・三宮の山下レディースクリニックに勤める林先生のブログ。

不妊症、子宮筋腫や子宮内膜症など良性腫瘍性疾患が専門とのこと。

子宮筋腫やチョコレート嚢胞に関する投稿はもちろんのこと、ビタミン剤やピルの効果、新鮮胚vs凍結胚など多岐に渡るテーマで情報発信をしています。

 

4. Do Repro! 男性不妊応援ブログ(獨協医科大学リプロダクションセンター)

獨協医科大学リプロダクションセンターの医師による、男性不妊の情報発信を行うブログです。

精子の質や精索動脈瘤、男性機能障害、おたふくかぜの影響など、男性なら気になるテーマでの情報発信がたくさん。

男性不妊専門医によるブログはまだまだ数も少ないので、貴重な情報を得ることができます。

また、このブログの作者の一人である、獨協医科大学泌尿器科医の岡田弘先生の個人ブログでは、ここともまた異なる切り口から男性不妊に関する情報が発信されていますので、併せてどうぞ。

 

5. 小柳由利子先生(東京HARTクリニック)

Coelでも以前ご紹介させて頂いた、小柳先生のブログです。

病院選びにあたってのアドバイス」や「PGS(着床前スクリーニング)の本当の意義」、「低刺激?or高刺激?」、「妊娠率90%を超えるクリニック」の作り方など、私たちの知りたいテーマを1つ1つ丁寧に説明してくれています。

 

6. 妊活ノートby京野アートクリニック

京野アートクリニックが運営するブログで、医師のみならず不妊カウンセラーや看護師、漢方相談担当薬剤師の方による幅広いテーマでの投稿が行われています。

こちらも、男性不妊治療も行っているクリニックであるため、男性に関するトピックスも豊富です。

 

7. 幸町IVFクリニック 院長と培養士のIVFこぼれ話

院長及び培養士の方が執筆するブログで、こちらも分かりやすいトピックスを論文や写真つきで解説しています。

胚移植するなら分割期?胚胞期?」や「着床しやすい内膜とは?」など、体外受精中なら誰もが気になる疑問への回答をエビデンスと共に見つけることができます。

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不妊治療連絡カード、会社に渡せますか?

不妊治療連絡カードができました。

厚生労働省が、仕事と不妊治療の両立を支援するために「不妊治療連絡カード」なるものを作成しました。

 

このカードには、①不妊治療を行う人が増えてきていることや男女問わず原因となりうることなど不妊治療の概要、②目安となる治療スケジュール、そして③不妊治療を行うことを医師の署名つきで会社に申請する書類が含まれています。

 

②目安となる治療スケジュールに関する記載はとても具体的です。

たとえば生殖補助医療(体外受精・顕微授精)の場合は、月経周期ごとに

診察1回1-2時間程度の通院:4-10日 + 診察1回あたり半日~1日程度の通院:2日

が必要となると書いてあります。

卵胞チェックや血液検査、注射のための通院が4-10回、採卵が1回、移植が1回ですね。

前もって治療の予定を決めることは困難、ということも記載してくれています。

 

このスケジュールでの通院回数最大値として記載されている12回の半休を1か月の間にとるというのは極めて難しいことだと思います。

1か月間とって終わりなら良いですが、それが妊娠するまで毎月続く可能性がある

しかも、妊娠したらつわりで休むかもしれないし、9か月後には産休・育休に入る

不妊治療を行う人がよほど有能な社員か、もしくはよほど女性に優しい会社でない限り、こうした状況は歓迎されないでしょう。

 

隣に併記された男性の通院回数の目安を見ると、不公平感は増します。

月経周期ごとの通院回数の目安、

「0-1日」

と書いています。笑。たった1日!

本来であれば女性に付き添って通院すべきなので、同じようにmax12回の半休であるべきなんですけどね・・・

 

不妊治療は会社に申請する「病気」になっていく?

不妊治療を行うことを会社に申請する、というのは新しい取り組みです。

医師の署名付きで正式な診断書を提出することにより、職場の理解が進む可能性があります。

一方で、プライベートなトピックスである不妊をわざわざ会社に伝えたくないという方も多いでしょう。

提出することによって「不妊休暇」を堂々と取得できるようになるのであれば良いですが、そうしたサポート体制が整っている会社はまだまだ少ない現状です。

 

とはいえ、一部の比較的恵まれた職場環境にいらっしゃる方にとっては、この不妊治療連絡カードが治療を円滑に進める一助となることでしょう。

1か月に半休12回も取れない!という方の場合は、

・まず当然ながら自己注射を行わせてくれる病院(その代わり、自己注射の方が通常値段が高くなります・・・)

・完全予約制で、お昼休みにささっと卵胞チェックや注射に行ける、会社のそばの病院

・土日祝日診療を行っている病院

・早朝・深夜診療を行っている病院

を選び、出来る限り会社を休まずにやりくりしていくしかありません。

 

例えば、京野アートクリニック(品川)では平日朝7時半から診察を行っており、仕事の前に病院に寄れる方も多いのではないでしょうか。

また、1月に開業したばかりの杉山産婦人科(新宿)では平日朝8時から血液検査、8時半から診察を行っており、月・水・金は19時まで診察していますので、新宿近辺にオフィスがある人は帰りに寄りやすいですね。

 

とはいえ、こうしたやりくりにはストレスも疲労も溜まります。一緒に通院しない(であろう)パートナーの方々の役割が重要です。

女性をいかにねぎらい、リラックスさせるか、考えてみてください。

 

 

 

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