リリーのすべてとヴァイキング

「リリーのすべて(原題:The Danish Girl)」という映画があります。

世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベを題材として、2015年に公開された映画です。

自らの中にある女性としての自分と、男として育ってきた自分のギャップに苦しみ、1人の医師との出会いによって性別適合手術を受けることになった彼女はデンマーク人であり、彼女が結婚していたゲルダ・ヴィーグナーもまたデンマーク人でした。

 

現在のデンマークでは、生殖医療関連ビジネスが一大産業となっています。

世界最大の精子バンクであるクリオス(Cryos)や、同じく精子バンク大手のヨーロピアン・スパーム・バンク(European Sperm Bank)、生殖医療関連医療器具を扱うオリジオ(Origio)もデンマークを本拠としています。

また、生殖医療に関する研究も盛んです。

 

ではなぜ人口600万人弱のデンマークでこんなにも生殖医療が盛んに行われるようになったのでしょうか。

国外進出も進んでいるクリオスやヨーロピアン・スパーム・バンクですが、依然としてドナーの半分以上はデンマーク人です。

精子バンクが大きくなった理由として挙げられるのが、精子ドナーによる精子の匿名提供です。

つまり、精子を提供しても、将来遺伝上の子供に対して自分の個人情報を知られることもなければ、その子供が大きくなったときに自分に会いに来ることもないのです。

その結果、アルバイト感覚で精子を提供する若い男性が多くなったのです。

ただ、最近ではそうした第三者の精子で生まれた子供たちが成人し、精子提供に対する考え方も変わってきています。

次の世代の子供たちのために、進んで自らの個人情報を開示し、遺伝上の子供からの連絡も喜んで受け入れるカルチャーになってきているのだとか。

 

一方、イギリスでは第三者の精子で生まれた子供が遺伝上の父親を知る権利を認めており、匿名での精子提供が禁じられています。

このため、精子ドナーが集まらず、設立1年間で9人しか精子提供者が集まらなかった精子バンクがあるほどです。

イギリス人女性がデンマークを訪れて第三者の精子を使った生殖医療を受ける「不妊ツーリズム」が活発になっています。

 

1,000年以上前、現在のデンマークのあたりに住んでいたヴァイキングはヨーロッパ各地へ侵攻、イギリスではノルマン王朝を建てました。

現在のイギリス王室もヴァイキングの血を引いてますが、生殖治療によりデンマーク人の血を引くことになったイギリスの赤ちゃんは通称「ヴァイキング・ベビー」とも呼ばれています。

ヴァイキングは、イギリスへ、そして世界中の国々へと輸出されるドナー精子を通じて、現在も着実に増え続けているのです。

 

日本では、産科婦人科学会が商用の精子バンクを認めていません。(但し、法規制は存在しておらず、商用精子バンクの存在は“違法”ではありません。)

デンマーク、イギリス、日本、そしてその他の国々。精子バンクや生殖医療に対する考え方は国ごとに本当にバラバラです。

カルチャーの違いと言ってしまえば一言ですが、私にはリリーという1人の人間の存在が死後80年たった今なお影響を与えているように感じられます。

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