不妊体験記

アイコン:オマリーさん
掲載日:2017/08

Vol. 6

100人に1人の無精子症。治療方法はありませんでした。

オマリーさん

治療終了時年齢 治療終了時 20代後半 30代前半

100人に1人の無精子症。治療方法はありませんでした。
オマリーさんのケース
結果
精子が見つからず、治療終了
症状
不妊検査をしたい
治療法
男性不妊(非閉塞性無精子症)、MD-TESE
治療開始時年齢
20代後半
30代前半
治療期間
約1年

100人に1人の無精子症。治療方法はありませんでした。

オマリーさんは、妊活開始後すぐに夫婦で不妊検査を受け、無精子症と診断されました。ショックを受けながらも、治療によって治すことできると思っていたら、手術で精子が見つからなかった場合なす術がないとの厳しい説明を受けました。

100人に1人いると言われている無精子症、自覚症状はほとんどありません。まさか自分に精子がないなんて、考えたこともなかったことでしょう。思いがけない検査結果に、自分はタネナシ、男として不完全なんだと落ち込んだ彼。手術から時間が経った今、その事実をどう受け止めているのでしょうか。

「不妊…。しょうがない、治療しよう」、そう思っていた。

夫婦で子どもが欲しいと思い始めてすぐの頃、婦人科の不妊検査を受け、精子ゼロが判明しました。最初はその事の重大さが理解できませんでした。先生の表情が深刻すぎて違和感を覚えたほどです。

もちろん、検査結果を見て、精子がないことは理解しました。だから治療を受けなければならないことも理解しました。理解していなかったのは、治療しても治らない可能性がそれなりに高いということです。

現代の医療で治せない病気は限られているし、ましてや自分はまだ20代で健康体だったので、不妊「治療」という言葉の通り、不妊は治療できるものだと感覚的に思っていました。

原因不明の無精子症判定。

次に訪れたのは男性不妊の専門医がいる病院。より精緻な検査をしてくれるということだったので、きっと今回は少し精子が見つかるのでは?少なくとも原因が見つかるのでは?と思っていました。

精液検査に加えて、触診やエコー検査なども行いました。他人に自分の性器をこねくり回されたり、お尻の穴からエコーの器具を入れてグリグリされたりするのは心地が良いものではありませんが、いいニュースが出ることを期待して我慢しました。

結果報告の場。先生の表情を見ただけでなんとなく察しました。婦人科の先生と同じ表情をしていたから。特に精管が詰まっているということもなく(もし精管がねじれているとか詰まっているとかしているなら、精巣に精子がある可能性がある)、精巣にも異常は見られない、なのに精子は作られていないようだとのことでした。

さらに遺伝子検査を行うことになりましたが、もしそこでも特段の理由が判明しない場合の治療として、Micro-TESE(顕微鏡下精巣内精子回収法、以下”MD-TESE”)を提案されました。精巣を切り開き、その中に精子がいないかを調べる手術です。自分のような非閉塞性無精子症の場合、手術での精子回収率は3-4割とのこと。手術費は約30万円と安くありませんが、それで精子が見つかる可能性があるならと思い、妻と話して手術を受けることにしました。

祈りながら臨んだMD TESEの手術当日。

遺伝子検査でも異常はなく、MD-TESEに臨むことになりました。

多少のカウンセリングや諸注意の伝達はありましたが、基本的には当日勝負。効果の有無は分かりませんが、手術前の数か月間はサプリメントを飲んだりオイスターを食べたりして準備をしました。体調をしっかり整えて精子が少しでも作り出されることを祈りつつ、手術に臨みました。

当日。麻酔をしているので痛みはありませんが、何かをカリカリいじっている感じがわかります。先生が精巣を切り取りながら、すぐに顕微鏡で見て精子の有無を確認していました。見つかればそれ以上は切り取らないはずなので、切り取る回数が増えていくにつれ、僕の心配も募っていきました。だいぶ切ったようですが、結局その場では見つからず。後で再度よく探してみるとのことでしたが、あまり期待はできなさそうな予感がしました。

妻にとっての、手術当日(妻より)。

無精子症の診断を受けた時は非常に驚きショックを受けましたが、手術で何とかなるのではないかという楽観的な気持ちもありました。もし見つからなかったらどうするか、ということはその時はあまり考えられていませんでした。

MD-TESE当日は夫と一緒に病院へ行き、待合室で雑誌を読みながら待ちました。しかし、何冊も読んで、もう読むものがなくなってしまっても夫が戻ってきません。予定よりだいぶ時間がかかっているようでした。心の中がざわざわしてくるのをかき消すために、読み終わった雑誌を開いて必死に活字を読んで待ちました。

2時間ほど過ぎたでしょうか。待合室にはやがて誰もいなくなり、静かな時間が流れていました。そして、夫ではなく医師が私のところへやって来ました。その姿を見た時に、結果はもう推測できました。先生はとてもかなしい表情をしていました。私は涙がこぼれるのを必死で我慢しながら先生の話を聞きました。精子・精子細胞ともに見つからなかったこと、再度MD-TESEを行い、もう片方の精巣を切り開くこともできるが、見つかる可能性は低いことを丁寧にご説明頂きました。

その後、夫が戻ってきました。お疲れ様、と声をかけました。でも、その後かける言葉がなかなか見つかりませんでした。とにかく気を紛らわそうと、近くのレストランでランチをとりました。悲しかったし、ショックでした。でも、何よりもMD-TESEまで頑張ってくれた夫に感謝しなければいけないと思いました。

自分の血を引く子供は持てない。じゃあどうする?

翌日から海外へ行かなくてはならなかったのですが、医師によると気圧や放射線の影響が問題になることはないということで、問題なく出かけることができました。痛みも徐々に治まり、1週間後の抜糸の時には痛みもほとんど消えていました。当日は激痛もありましたが、あとは違和感程度で済んだように思います。

切り開いていない方の精巣もMD-TESEで見てみるという選択肢もありましたが、精子が見つかる確率はせいぜい数%のようです。第三者の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)という選択肢もありますが、そもそも第三者の精子を使いたいかという問題もありますし、どちらにしても成功確率は数%とのこと。あとは養子縁組という方法があります。もちろん、子供を持たないことも選択肢です。

妻は子供のいない生活でもいいよと言ってくれています。私たち夫婦の中ではまだ結論は出ていません。とはいえ、AIDをするなら妻の年齢も考えなくてはいけませんし、時間切れで選択肢が限られてしまうのはイヤなので、しっかり話し合って今後のことは決めるつもりです。

不妊を受け入れる。

最近になってようやく、なぜ自分が不妊になってしまったのかということを考えなくなりました。もうなってしまったものはしょうがない。ようやく自分が不妊であるということを受け入れられるようになったのかもしれません。種無しという事実も明るく話せるようになりました。それが自分であり、妻も受け入れてくれました。むしろ、遺伝子検査まで行っても精子がないこと以外に何の異常も出てこなかったことに感謝しなければならないのかもしれません。僕は無精子症だけれど、それを除けば全くの健康体なのです。

自分は子供が欲しくてMD-TESEに踏み切りましたが、そこまでして子供を持ちたいかというのは悩みました。でもその時に思ったのは、今やらなければきっと後で後悔するということ。もしこれが女性不妊で体外受精を行わなくてはいけない状況だとしたら、おそらく妻も自分も体外受精をして子供が欲しいと思ったのではないかということ。「そこまでして」とは言うけれど、それはただの言い訳で、子供を授かり育てることの喜びに対して数日の痛みと数十万円の費用なんて比べるまでもないと思ったということ。

結局精子は見つかりませんでしたが、MD-TESEをやらなきゃよかったと思ったことは一度もありません。人それぞれの考えがありますが、私はぜひ同じような状況の方にはMD-TESEを受けてほしいと思っています。そして、もしそもそも精液検査を受けたことのない方がいたら、ぜひ一度受けてみてほしいと思っています。子供を望む1つでも多くの家庭にコウノトリがやってくることを心から祈っています。

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